2023/12/2に開催された第248回日本神経学会関東・甲信越地方会で、当科のレジデントの三橋が「若年で発症したLamin B1関連常染⾊体優性遺伝性成⼈発症⽩質脳症の31歳⼥性例」という演題で発表を行いました。
Lamin B1 関連常染⾊体優性遺伝性成⼈発症⽩質脳症(Lamin B1 related adult-onset autosomal dominant leukodystrophy:ADLD)は自律神経障害、錐体路障害、小脳性失調を伴う遺伝性白質脳症です。Lamin B1 遺伝子の重複または上流のエンハンサーの欠失により、Lamin B1が過剰産生されることにより発症します。自律神経障害で発症する点、また、常染色体潜性遺伝やX連鎖性遺伝形式をとり乳幼児期に発症する他の白質脳症と異なり、30歳代から50歳代(多くは40歳以上)と比較的高齢で発症し、常染色体顕性遺伝形式をとる点が特徴です。
我々の症例は25歳と、既存の報告と比べ若年での発症でした。
MRI では大脳白質、両側中小脳脚、橋、延髄、両側歯状核近傍などに対称性にT2WI高信号変化を認めましたが、その内側の側脳室周囲では変化が弱くなっていました。
脊髄は萎縮しており、白質に連続性・対称性にT2WI高信号変化を認めました。
エクソーム解析(SureSelect Human All Exon V6)では、Lamin B1を含む遺伝子領域でコピー数の増加があり、推定コピー数は3で、Lamin B1 の重複と考えられました。
加齢による活性酸素の増加により、Lamin B1産生が増加することがADLDの成人期の発症に関わっていると考えられています(Nucleus 2016 Nov;7(6):547-553)。
ADLDは成人期発症の白質脳症のため多発性硬化症と誤診されます(Noro Psikiyatr Ars. 2019 Mar;56(1):1-2. )。多発性硬化症は側脳室周囲に病変が見られますが、ADLDは側脳室周囲の変化は比較的弱いこと(AJNR Am J Neuroradiol. 2006 Apr;27(4):904-11.)が鑑別のポイントになるかもしれません。