核医学検査を用いたパーキンソン病の診断

パーキンソン病でみられる振戦(手のふるえ)、動作緩慢(動きの遅さ)、筋固縮(関節の動かしにくさ)、姿勢保持障害(転びやすさ)などの症状は、パーキンソニズムと呼ばれ、パーキンソン病以外の病気でもみられます。また、本態性振戦でも手や頭のふるえが生じることがあります(図1)。病歴の聴取や神経診察に加えて、核医学検査を行うことで、より正確に診断できます(病初期ではそれぞれの病気の特徴がはっきりしないため、十分な検査を行っても鑑別が難しいことがあります。)

核医学検査とは

核医学検査とは、ごく微量の放射線同位体を体内に投与して、身体から出てくる放射線を検出して画像にする検査です。体からなくなるまで放射線による被曝を受けますが、短時間のため、被曝量は0.2-8mSV程度(X線検査やCT検査と同程度)とごくわずかです。MRI検査やCT検査は臓器の形態や構造を評価するのに適しているのに対し、核医学検査では機能や代謝を調べることができます。
パーキンソン病の診断や、他の病気との鑑別のため行う検査には、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DATスキャン)、MIBG心筋シンチグラフィ、脳血流SPECTがあります。疑われる病気に合わせて、適した核医学検査を組み合わせて行います。いずれの検査も、病初期においては異常がはっきりしないことがあり、注意が必要です。

ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DATスキャン)

パーキンソン病では脳の黒質緻密部のドパミン神経細胞が減少し、線条体(尾状核と被殻に分けられます)という部分の神経終末に存在するドパミントランスポーターの密度が低下します。DATスキャン検査はこのドパミントランスポーターを可視化する検査であり、ドパミン神経の減少を評価することができます。
パーキンソン病やレビー小体型認知症、およびパーキンソン病類縁疾患(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症)で集積が低下します(図2)。集積の低下の程度や左右差も診断に役立ちます。

正常例では、尾状核と被殻に同程度の集積を認め、カンマ型を示します(図2A)。被殻の集積が低くなると、尾状核頭のみに集積して描出され、ドット型の集積を示します(図2B)。さらに進行した例では、大脳皮質に非特異的な集積が描出されたり、尾状核の集積も目立たなくなることがあります(図2C、D)。多系統萎縮症や進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症でもドパミントランスポーターが減少するため、その集積は低下します(図E-G)。大脳皮質基底核では集積の程度に左右差があるのが特徴で、図Gの症例では左半球側(図では右側)でより集積が低下しています。

MIBG心筋シンチグラフィ

MIBG心筋シンチグラフィはメタヨードベンジルグルアニン(MIBG)という放射線同位体を注射して心臓の交感神経の働きを画像で調べる検査です(図3)。パーキンソン病やレビー小体型認知症では心臓のMIBGの取り込みが落ちますが、他のパーキンソン病類縁疾患では保たれます。
また、糖尿病や心筋虚血、心不全でも心臓の交感神経が障害され、MIBG取り込みに影響するため、解釈に注意が必要です。
MIBG心筋シンチグラフィは内服薬剤の影響を受けやすく、特に抗うつ剤(四環系抗うつ薬、三環系抗うつ薬、SNRI/SSRI)やMAOB阻害薬(セレギリン)服用時は集積が低下します。これらの薬を服用されている場合は、検査の前に主治医にご相談ください。

正常例では心筋(丸印)に集積が見られるのに対して、集積低下例でははっきりしません。また、正常例では早期相、後期相ともH/M比(心縦隔比)が正常参考値を超えているのに対して、集積低下例では下回っています。また、Washout rate(心筋洗い出し率)は集積低下例でより高くなります。

脳血流SPECT

脳血流SPECTは脳の形態変化の前段階に起こる脳血流の変化の状態を調べる検査です。アルツハイマー病やなど、認知症の検査でもよく用いられます。多系統萎縮症、レビー小体型認知症、正常圧水頭症などの診断に有用です。

レビー小体型認知症では、両側の後頭葉の内側(図4の赤矢印)に血流低下がみられます。

大脳皮質基底核変性症では、症状優位側の大脳半球の血流低下がみられます。図5の症例では、左大脳の中心溝周囲の前頭頭頂葉で血流が低下しています(赤矢印)。

正常圧水頭症では、高位円蓋部で皮質の密度が増加するため、相対的な血流増加がみられます。

受診の流れ

筑波大学附属病院脳神経内科では、核医学検査機器をお持ちでない医療施設からの核医学検査施行目的の患者さんのご紹介を受け入れております(図7)。
当院は特定機能病院のため、受診には紹介状が必要です。患者さんご本人が核医学検査をご希望の場合は、まずはかかりつけの医師とご相談ください。現在、病院におかかりでない場合には、お近くの脳神経内科(神経内科)に受診してください。すでに頭部CT・MRIなどの画像検査を施行されている場合は、データをお持ちいただけるとスムーズです。核医学検査による診断が適応にならない場合もございますので、予めご了承ください。
核医学検査のみをご希望の場合は、初回の受診で病歴をお伺いし、紹介状やすでにお撮りの画像データの情報と合わせて、必要な核医学検査を判断します。核医学検査の結果が出たのちに、もう一度診察を行い、患者さんに検査結果を説明しかかりつけの医師への紹介状を記載いたします。かかりつけの医師や患者さんのご希望によっては、その後も受診を継続し、当科で薬剤を投与した時の症状改善を確認したり、かかりつけ医と当科との併診をお勧めすることもございます。
当院への紹介受診の流れにつきましては、筑波大学附属病院ホームページの「初めて受診される方へ」、および当科ホームページの診療案内もご覧ください。

核医学検査を複数受ける場合は、前に行った検査で投与した放射線同位体が次の検査に影響を与えるのを防ぐため、間隔を空ける必要があります。たとえばパーキンソン病が疑われる場合は、多くの場合DATスキャンとMIBG心筋シンチグラフィを組み合わせて診断するため、初診から2回目の受診まで2週間程度かかります。

筑波大学 神経内科(脳神経内科)

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