
現在、筑波大学付属病院脳神経内科では、レム睡眠行動障害の診断方法に関する臨床研究を行っています。
レム睡眠行動障害は夢を行動にうつす病気です。通常、レム睡眠時は体の力が抜けますが、レム睡眠行動障害の患者さんでは夢の内容に合わせて寝言を言ったり、手足を動かしたりします。クロナゼパムなどの薬で症状が改善します。
レム睡眠行動障害の患者さんは時間が経つと多くがパーキンソン病を発症するため、レム睡眠行動障害はパーキンソン病の前駆症状として注目されています。
レム睡眠行動障害と区別のつきにくい疾患もあるため、確定診断にはポリソムノグラフィといわれる検査が必要です。しかし、ポリソムノグラフィの装置は高価で、装着に時間がかかり、装着・結果の解釈にスキルが必要なため、実施できる施設は限られています。
当院では、レム睡眠行動障害が疑われる患者さんに対して、新しい診断法の臨床研究を行っています。また、同時に、病歴を伺ったり、詳しい神経診察をおこなって、パーキンソン病が疑われる症状があるか調べます。必要な場合は、核医学検査を実施する場合もあります。
本外来は神経内科専門医が実施しておりますので、レム睡眠行動障害の診断だけでなく、パーキンソン病の症状の評価も行います。今後の症状が不安な方の定期診察も行います。
レム睡眠行動障害が疑われる症状でお困りの方、また、パーキンソン病などの神経疾患を発症する可能性についてご心配されている方は、ぜひ受診ください。
本臨床研究についてのお問い合わせは以下にお願いいたします。
筑波大学附属病院脳神経内科
臨床研究担当医師 三橋泉、斉木臣二
029-853-3224
izumi.mihashi[at_mark]gmail.com(三橋)
ssaiki[at_mark]md.tsukuba.ac.jp(斉木)
(at_markは@に置き換えてください。)
また、参加希望の患者さまのご紹介は「筑波大学附属病院 脳神経内科 レム睡眠行動障害外来(三橋泉が担当)」もしくは「筑波大学附属病院 脳神経内科 斉木臣二」あてにご紹介ください。
目次
レム睡眠行動障害の症状と治療
人の睡眠は、夢をみる睡眠であるレム睡眠と、それ以外の睡眠であるノンレム睡眠があります。レム睡眠はもっとも原始的であり、胎児のときの最初の睡眠はレム睡眠が100%です。だんだん減って、3-5歳ごろには安定し、全睡眠の20%程度になり、その後は年を重ねても大きく割合は変わりません。



レム睡眠のときは、夢の内容につられて体が動かないように、体を動かす筋肉の力が抜けています。レム睡眠の時に体の力を抜くスイッチに異常が起きて、夢の内容にしたがって体が動いたり、声を出したりするのがレム睡眠行動障害(Rapid eye movement sleep Behavior Disorder: RBD)です。脳幹という脳の中心の部位の神経核の障害が原因と言われています。襲われる、けんかをするなど、攻撃的な夢を見ることが多いようですが、夢を覚えていないこともあります。
以下のような症状が現れた場合は、レム睡眠行動障害の疑いがあります。
- 寝言をいう、叫ぶ
- 隣の人や壁を殴ったりける
- 周りのものを落とす、けがをする
- ベッドから落ちる
一般に、男性の患者さんに比べて、女性では攻撃的な動作が目立たない傾向があり、ぶつぶつと寝言を言ったり、少し動いたりするだけのこともあります。
レム睡眠行動障害の症状には、クロナゼパムという薬がよく効きます。副作用などでクロナゼパムが使えない方には、プラミペキソール塩酸塩水和物、メラトニン、抑肝散などを使用することもあります。
パーキンソン病とレム睡眠行動障害の関係
レム睡眠行動障害は、パーキンソン病の発症前に現れる症状として注目されています。
パーキンソン病は中脳の黒質という場所にあるドパミン神経細胞が減少し、振るえ、動作の遅さ、転びやすさなどの運動にかかわる症状を起こす病気です。運動症状が現れる前に、嗅覚低下、便秘、立ちくらみなどの非運動症状が現れることがわかっています。非運動症状の中で、もっともパーキンソン病との関連が深いと考えられているのがレム睡眠行動障害です。

レム睡眠行動障害を持っている方は、高い確率でパーキンソン病に移行します。レム睡眠行動障害を発症した人のうち、50%の人が10年以内にパーキンソン病に移行し、最終的には81-90%がパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症*1などの神経疾患に移行します。

レム睡眠と区別がつきにくい病気
レム睡眠行動障害は、ご本人や一緒に寝ている方の自覚症状でもある程度見当がつきますが、似通った病気が多くあります。治療法が違うため、正確な診断には、病院に泊まって行う「ポリソムノグラフィ」という検査が必要です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSA)

OSAは寝ている間に喉の筋肉が緩み、呼吸がしにくくなる病気です。特にレム睡眠のときは、のどの筋肉も緩むため、無呼吸の症状も強くなります。血中の酸素濃度が大きく下がり、呼吸するために覚醒し、また眠るということを繰り返しますが、本人は何度も起きている自覚がありません。
自覚症状としては、夜間眠れていないため、昼間の眠気が強くなったり、眠るつもりがないのに眠ってしまうことがあります。また、大きないびきをかいたり、寝ている間に息が止まったりするので、一緒に寝ている方が気づくこともあります。
軽症の場合は、横向きに寝たり、マウスピースをつけることで改善することがあります。また、鼻のとおりが悪い場合は、耳鼻科の治療で鼻詰まりを改善することでよくなることもあります。重症の場合は、CPAPという寝ている間にマスクを着用して空気を流す治療の保険適応があります。
OSAにおいては、無呼吸を繰り返すため寝苦しく、悪夢を見やすくなります。また、睡眠中に血中酸素濃度が低下し、覚醒する際に、苦しさからうめき声を出したり、暴れることもあります。このため、OSAによりレム睡眠行動障害のような症状が出ることがあります。ともに、発作中に起こすと簡単に目が覚める、夢の内容を覚えているなどの特徴が似通っているため、なかなか症状からでは区別がつきません。また、レム睡眠行動障害の患者さんはOSAがあることが多く、OSAを治すことでレム睡眠行動障害が改善することがよくあります。
このため、レム睡眠行動障害が疑われる患者さんには、同時にOSAの評価をすることが重要です。
夜驚症

睡眠時驚愕症は一般に夜驚症と言われ、夜眠っているときに突然叫び声をあげて泣いたり、起き上がったりする症状です。自律神経が興奮しているので、息が激しくなったり、心拍が上がったり、汗をかいたりします。発作が終わると自然に寝つきます。起きた時に症状について尋ねても覚えていません。この症状が起こるのは、主に眠り始めてから3時間の間です。この時間帯が一番眠りが深いので夜驚症が起こりやすいと言われています。
脳が未成熟な3-8歳程度の子供によく起きる症状で、成長すると多くは自然に治るため、他に問題がなければ治療の必要はありません。発作中にお子様が怪我をしないよう、環境を整えてあげてください。症状が強く、日常生活に支障が出たり、走り回ったりして怪我をする可能性がある場合は、お薬を使うこともあります。大人に起きる場合は、薬や精神的なストレスが原因となっていることがあります。
睡眠時遊行症(夢遊病)

睡眠時にベッドから出て歩き回るなど何らかの行動をとる症状で、いわゆる夢遊病です。夜驚症と同様、深い睡眠から急に脳の一部が覚醒し、まだらに起きている状態で起きます。声をかけても反応しません。多くの場合、症状が終わるとそのまま寝つきます。覚醒してから症状が起きた時の行動を思い出すことはあまりありません。怪我をしたりしなければ、薬物治療は不要です。ベッドから出るときに怪我をしないよう床か低めのベッドに寝るようにする、ドアの鍵は閉めておくなど、安全な環境を整えてください。
4-8歳ぐらいに発症し、もっとも多く起きるのは12歳前後で、その後、成長するに従って減ってきます。夜驚症と夢遊病が合併することもあり、関連が深いと考えられています。大人に起きる場合は、睡眠薬の使用や、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠を妨げる原因が影響していることがあります。
睡眠関連摂食障害
睡眠関連摂食障害とは、夜間睡眠中にぼんやりした状態でものを食べる病気です。睡眠時遊行症や睡眠時驚愕症と同じく、脳がまだらに起きている状態で起きると考えられています。火を使って調理したり、コンビニなどに外出することもあります。意識が正常ではないので、未調理のもの、食べ物でないものを食べることもあります。
睡眠状態を乱す原因がある場合、取り除くことが需要です。睡眠薬や抗コリン薬の服用が症状を引き起こすことがあり、その場合は服用の中止が必要となります。また、睡眠時無呼吸症候群がある場合はCPAPが有効です。
特に他に睡眠の問題がない場合の治療法は確立されていませんが、トピラマート、クロナゼパムなどの薬の有効性が報告されています。薬で症状が治らない場合、火事を防ぐためガスの元栓を閉める、冷蔵庫を鍵でロックするなどの対策をおすすめすることもあります。
睡眠時てんかん

睡眠時にのみ起きるてんかんがあり、レム睡眠行動障害と区別がつきづらいことがあります。
睡眠時のてんかんで特に多いのは前頭葉てんかんで、フェンシングをするように右手(あるいは左手)を突き出し、顔は右手(あるいは左手)の方をみて、左手(あるいは右手)を上げるような動作をとったり、自転車をこぐように足を動かしたりします。夢とは関連がありません。発作時の脳波とビデオ画像が診断に重要です。睡眠の状態を調べる検査(ポリソムノグラフィ)
睡眠の状態を調べるための検査がポリソムノグラフィです。覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠などの睡眠のステージを調べるための眼電図、脳波に加えて、呼吸の状態を調べるためのいびきセンサー、鼻や口の気流や温度のセンサー、胸部・腹部の呼吸運動センサーなどがあります。体の動きはおとがいや腕・脚の筋電図センサーで捉えます。さらに、体の向きと呼吸の関連を調べるための体位センサー、睡眠中の不整脈などを捉えるための心電図モニターがあります。動きの詳細やいびき・寝言について調べるため、ビデオ録画も行います。

新たな手法の開発について
ポリソムノグラフィは睡眠に関連した多くの生体信号を同時に計測できるため、睡眠の状態や睡眠障害について包括的に評価できます。しかし、装着や結果の判読に熟練が必要で、時間もかかるため、ポリソムノグラフィを実施できる施設は限られています。また、装着時の患者さんの負担感が大きく、不眠気味になったり、普段通り体が動かせなかったりします。
このため、当院では、現在より簡単で患者さんの負担の少ないレム睡眠行動障害の臨床研究を行っています。
受診・診察の流れ
外来予約
筑波大学附属病院は厚生労働省が定める特定機能病院であるため、受診には紹介状が必要です。かかりつけ、もしくはお近くの医療機関で、筑波大学附属病院脳神経内科のレム睡眠行動障害外来(三橋 泉担当)または斉木臣二宛の紹介状の記載を依頼し、外来を予約してください。
筑波大学附属病院の初回の予約を取る方法は、紹介状を作成した医療機関から医療連携患者相談センターにご連絡いただく方法と、患者さんご自身で予約センター(029-853-7668)にご連絡いただく方法、患者さんご自身が筑波大学附属病院に来院して予約をとる方法があります。予約センターは混み合っておりますので、医療機関から医療連携患者相談センターにご連絡いただくことをおすすめします。
診療の費用については、新しいレム睡眠行動障害の診断法については無償で行います。ポリソムノグラフィを含むその他の診療・検査については、保険診療として行います。
初回の受診
初回の受診では、いままでの症状や、他にかかっている病気などをお聞きします。また、レム睡眠行動障害の症状に関する質問票や簡単な認知機能検査、パーキンソン病の症状を調べる神経診察などを行います。臨床研究の条件に合致し、患者さんの了承が得られた場合は、臨床研究のための入院の予約を行います(もし、臨床研究の条件に合致しない場合でも、レム睡眠行動障害の診断・治療や、パーキンソン病の症状の評価は行いますので、心配な症状がおありの方はぜひいらしてください)。
すでに症状を抑えるためのクロナゼパムを服用されている場合は、より正確な検査を行うため、検査入院前に一度中止いたします(検査終了後に再開すれば、速やかに症状は改善します)。
入院(一泊二日)
入院後一ヶ月以降に外来で結果をお知らせします。レム睡眠行動障害の症状が強く投薬が必要な場合、また、パーキンソン病の症状でお困りの場合は、薬の投与を開始しいたします。遠方の場合は、お近くの医療機関をご紹介いたします。現在は投薬が必要でない場合も、3ヶ月〜半年に1回程度の経過観察目的の診察をいたします。
画像検査の施行について
パーキンソン病と似たような症状を示す病気は多いため、問診や診察室での診察では区別がつけづらいことがあります。より正確に評価するために、頭部MRI検査や核医学検査をおすすめすることもあります。
関連ページ:核医学検査を用いたパーキンソン病の診断
特に、パーキンソン病の運動症状の前触れとしてレム睡眠行動障害が現れている場合、MIBG心筋シンチグラフィという検査で心筋での集積が低下し、DATスキャンでも線状体への集積が低下していることがあります。ポリソムノグラフィに加えて、核医学検査を施行することで、現在の病状をより正確に把握できます。
お問い合わせ、ご紹介
筑波大学附属病院脳神経内科
臨床研究担当医師 三橋泉、斉木臣二
029-853-3224
izumi.mihashi[at_mark]gmail.com(三橋)
ssaiki[at_mark]md.tsukuba.ac.jp(斉木)
(at_markは@に置き換えてください。)
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